8. シミュレーション科学基盤グループ

バーチャルリアリティ装置を利用した,シミュレーションや実験結果の可視化や,実験・装置設計への貢献のため、3次元可視化技術を発展させる研究を進めています。また,シミュレーション研究を進める上で欠かせない計算機及びその環境をより高度に利用するための技術を発展させる研究を進めています。

研究紹介1
バーチャルリアリティ装置を使ったシミュレーションデータ解析1

シミュレーション研究の計算過程ではコンピュータによって膨大な数値データが生み出されます。そのような生の数字を眺めただけでは実際に何が起こっているかを認識することは困難です。数値データをグラフにしたり、等高線を書いたりして、人に分かりやすい表現に焼き直して初めてその様子をよく理解することができるようになります。近年、日進月歩で進歩するスーパーコンピュータのおかげもあって、大規模な3次元シミュレーションが行われるようになってきました。この3次元データは通常3次元可視化ソフトなどを使って2次元面のディスプレイ上に写して解析しますが、奥行きの情報が十分ではないため、3次元で計算された物理量の空間構造(磁場構造や粒子の軌道など)を理解するには困難が伴う場合や、全く理解できない場合があります。このような理由によって、3次元シミュレーションの結果は3次元空間で解析することが望ましいことになります。本研究では、3次元シミュレーション結果を3次元空間で解析するための方法として、没入型バーチャルリアリティ(仮想現実)装置"CompleXcope"を使った解析を行いました。CompleXcopeは、3m×3mの大きなスクリーンで4方向(前左右下)から観測者を囲むことで、観測者をシミュレーションモデルに没入させ、任意の視点から任意の大きさで対象を立体的に観測することを可能にしています。CompleXcopeを使った解析によって、シミュレーションで得られた電磁場中での粒子挙動を調べ、その結果、複雑な3次元軌道を描く粒子の運動が磁力線のつなぎ変え(リコネクション)に重要な役割を演じることが明確に示されました。この研究で用いたソフトウェア(VFIVE及びその拡張版)はリコネクション研究に限らず、他の分野でのシミュレーションにも応用が期待される機能を有しており、シミュレーション科学の基盤技術確立とシミュレーション研究の推進にとって重要な指針となるものとして注目されています。
参考文献:"Scientific Visualization of Magnetic Reconnection Simulation Data by CAVE Virtual Reality System", H. Ohtani and R. Horiuchi, Plasma and Fusion Research, 3, (2008), 054.

没入型バーチャルリアリティ(仮想現実)装置"CompleXcope".




VFIVE拡張版を使ったリコネクションのシミュレーション解析の一例.

研究紹介2
バーチャルリアリティ装置を使ったシミュレーションデータと実験装置データの同時可視化
CompleXcopeを使って,大型ヘリカル装置(LHD)の真空容器内に平衡プラズマのシミュレーション結果を同時に可視化しています。LHD真空容器の可視化はCADデータをもとに構成されていて,ダイバータ板やICH・ECHアンテナなど内部構造物が実際の装置と同じように配置されています。シミュレーション結果はHINTコードのデータをもとに,磁力線や圧力等値面,粒子軌道を対話的に計算・表示されます。これにより,真空容器内におけるプラズマの様子をVR空間で直感的に把握することが可能であり,観測ポートからプラズマの様子を確認することができます。

シミュレーションデータと実験装置データの同時VR可視化の例

参考文献:
・“Scientific Visualization of Plasma Simulation Results and Device Data in Virtual-Reality Space”, H.Ohtani, Y.Tamura, A.Kageyama, S.Ishiguro, IEEE Transactions on Plasma Science Special Issue - Images in Plasma Science 2011, 39 (11), (2011), 2472-2473.DOI:10.1109/TPS.2011.2157174
・“Integrated Visualization of Simulation Results and Experimental Devices Plasma and Fusion Research, 6, (2011), 2406027 (4pages). DOI: 10.1585/pfr.6.2406027
・H.Miyachi et al: IEEE Computer Society, (2005), 530.
・H.Miyachi et al: IEEE Computer Society, (2007), 536.

研究紹介3

大規模粒子系の可視化のための時系列粒子軌道データの不可逆データ圧縮法
粒子系の可視化を行うことを目的として、大規模粒子シミュレーションのためのデータ圧縮法を提案した。このデータ圧縮法はシミュレーションによって生成された粒子軌道データを直接取り扱う。この方法に「TOKI(Time-Order Kinetic Irreversible compression)」と名付けた。データ圧縮法の実装の例を示し、プラズマや銀河形成シミュレーションデータへ応用して、エラーを制御しながらよいデータ圧縮率を示すことができた。

圧縮データの再現性.3次元プラズマ粒子シミュレーションの粒子のX座標の時間変化を示している.赤線がdecodeしたデータを,緑の十字がシミュレーションデータを示している.
参考文献:
  • H.Ohtani, K.Hagita, A.M.Ito, T.Kato, T.Saitoh and T.Takeda: Journal of Physics: Conference Series, accepted (2013).  



シミュレーションコードの紹介

名称:VFIVE
  • 目的:CAVE型VR装置を活用し、流れ場や磁場など3次元の場のデータを、そのデータ空間に文字通り体ごと没入しながら対話的かつ立体的に解析すること。
  • 機能:入力データはカーテシアン座標で定義された複数のスカラー場・ベクトル場である。等値面、断面、ボリュームレンダリング、流線、ベクトル場の矢印表示など、基本的な可視化機能が実装されているだけでなく、下に述べる通り、VRの対話的環境を生かした独自の可視化機能も実装されている。
  • 特徴:手に持ったコントローラからトレーサー粒子を次々と放出させたり、コントローラから放射される仮想的なスポットライトの中に数百個のトレーサー粒子が風に舞う用に飛ぶ様子を観察したりなど、VRの特 性を生かした対話的なデータ解析が可能であること。
  • 参考論文:
    (1) Nobuaki Ohno, and Akira Kageyama, Region-of-Interest Visualization by CAVE VR System with Automatic Control of Level-of-Detail, Comput. Phys. Comm., vol.181, pp.720-725 (2010)
    (2) 陰山 聡, 大野 暢亮, 『バーチャルリアリティを用いた対話的3次元可視化ソフトウェアの開発とその応用』, プラズマ核融合学会誌, vol.84, No.11, pp.834--843 (2008)
    (3) N. Ohno and A. Kageyama, Scientific Visualization of Geophysical Simulation Data by the CAVE VR System with Volume Rendering, Phys. Earth Planet. Interiors, vol.163, pp.305--311, doi:10.1016/j.pepi.2007.02.013 (2007)
    (4) N. Ohno, A. Kageyama, and K. Kusano, Virtual Reality Visualization by CAVE with VFIVE and VTK, J. Plasma Physics., J. Plasma Physics, vol.72, part 6, pp.1069-1072 (2006)
    (5) Akira Kageyama, Yuichi Tamura, and Tetsuya Sato, Visualization of Vector Field by Virtual Reality, Progress of Theoretical Physics Supplment, Vol. 138, (2000), pp.665-673
    (6) Akira Kageyama, Yuichi Tamura, and Tetsuya Sato, Scientific Visualization in Physics Research by CompleXcope CAVE System, Transactions of the Virtual Reality Society of Japan, Vol.4, No.4 (1999) pp.717-722