核融合炉材の候補として、融点が高いタングステンが近年注目されています。このタングステンについて、核融合反応下での物性が研究されています。このタングステンに、核融合反応の生成物であるヘリウムが照射されると、綿毛構造が生成されます。この現象は、ヘリウムと同じ希ガスであるネオンとアルゴンをタングステンに照射されても形成されないという性質を持つことが実験により報告されています(たとえば、名古屋大学大学院工学研究科・大野グループ等)。この綿毛構造が壊れて、炉材からプラズマに流れ込み不純物となり、プラズマの閉じ込めを悪くすることが懸念されています。そこで、タングステン上にこの綿毛構造が生成しないようにするために、綿毛構造がどのようなメカニズムで成長するかの原因を知る必要があります。数値実験炉研究プロジェクトでは、「二体衝突近似法」と「密度汎関数法」という二種類のシミュレーション技法を用いて、綿毛構造生成メカニズム解明を開始しました。まず、タングステンにヘリウム、ネオン、アルゴンを照射する二体衝突近似法によるシミュレーションを行い、ヘリウムのみタングステンの十分内部に侵入することが分かりました(図1)。次に、タングステンの内部にある空孔にヘリウムが捕獲するエネルギーを、密度汎関数法により求めました。これより、一つの空孔に複数個のヘリウムを捕獲しても安定になることがわかりました(図2)。以上の二種類のシミュレーション結果は、ヘリウムのみ綿毛構造を形成する原因に大きな示唆を与えるものと考えています。今後、さらにタングステン内部での希ガス原子の拡散や、タングステンの構造変化をシミュレーションでしらべ、より詳細に綿毛構造形成の解明を進めていきます。
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図1. 希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン)のタングステンへの侵入する深さの入射エネルギー依存性。二体衝突近似法によるシミュレーションで計算しました。タングステンを損傷しない入射エネルギーで各希ガスが侵入した場合、ヘリウムのみが十分深くまで達することが分かりました。[S. Saito, et al., Journal of Nuclear Materials 438 (2013) S895] |
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図2. 一つの空孔がヘリウムを捕獲する際のエネルギー(捕獲エネルギーEB)のヘリウム原子数の依存性。密度汎関数法により計算しました。捕獲エネルギーが、現時点での限界の9個まで正に保たれるということが、ヘリウムを安定に捕獲できるということを示しています。 [A Takayama, et al., Japanese Journal of Applied Physics 52 (2013) 01AL03]. |
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