4. 新古典・乱流輸送シミュレーショングループ

ジャイロ運動論、ドリフト運動論および流体モデルにもとづき、LHDをはじめとした磁場閉じ込めプラズマにおける乱流輸送ならびに新古典輸送現象の理論・シミュレーション研究を推進する。実験におけるプラズマの輸送解析に取り組み、シミュレーションの検証、実験結果の理解、およびその予測へとつながる研究、それに必要とされるシミュレーションコードの開発・整備を行う。また、輸送モデリングを行い、統合輸送コードとの連携を進める。



LHDプラズマのジャイロ運動論的シミュレーションによるイオン温度勾配乱流とゾーナルフロー
LHDプラズマ中のイオン新古典粒子束と径電場の変化をシミュレーションした例。 イオンと電子の粒子束が釣り合うように自発的に径電場が形成されるが、この例では 0.2<r<0.6 の電場が正に遷移し、新古典輸送がより小さい値で釣り合いを満たすようになり、プラズマ閉じ込め性能の改善が起こっている。

 トロイダルプラズマの簡約化二流体シミュレーションから得られた静電ポテンシャル分布と磁力線のポアンカレマップを表す。巨視的な磁気島が現れる前の乱流状態(t=245)と巨視的な磁気島が現れた後の乱流状態(t=324)を示す。



最近の研究成果

ジャイロ運動論的シミュレーション・コードによるLHDプラズマ乱流輸送の研究

ジャイロ運動論的シミュレーションにより再現されたLHD高イオン温度プラズマのイオン温度勾配乱流とゾーナルフロー(LHD装置のバーチャル・リアリティー画像との合成)


ジャイロ運動論的シミュレーション・コードGKV-Xにより予測されるイオン熱流束とLHD実験結果との比較
ジャイロ運動論的シミュレーション・コードGKV-Xを用いてLHD高イオン放電配位におけるイオン温度勾配(ITG)乱流輸送を解析した結果、イオン熱輸送係数や、乱流揺動スペクトルの実験データを定量的に再現することに成功した。 現在は、様々な実験における放電を反映した平衡配位での乱流輸送シミュ レーションを行う一方、高精度な衝突効果の導入等、コードのさらなる拡張を 進めている。
M. Nunami, T.-H. Watanabe, H. Sugama, and K. Tanaka "Gyrokinetic turbulent transport simulation of a high ion temperature plasma in large helical device experiment”, Physics of Plasmas 19, 042504 (2012).

電磁的ジャイロ運動論シミュレーション・コードによる有限βプラズマ乱流の研究
国内で唯一の電磁的ジャイロ運動論シミュレーション・コードを開発し、大型ヘリカル装置(LHD)の有限ベータプラズマにおける乱流輸送の評価を可能にした。図はLHD内のプラズマ中でドーナツ外側を拡大した領域に現れる乱れの分布を示す。プラズマベータが低い場合はイオン温度勾配不安定性による乱流の渦が水平方向に分布するが、一方、プラズマベータが高い場合は運動論的バルーニングモードによる乱流の渦が斜めに傾いて分布すること明らかになった(プラズマベータは規格化した圧力)。
A. Ishizawa, S. Maeyama, T.-H. Watanabe, H. Sugama and N. Nakajima, "Gyrokinetic turbulence simulations of high-beta tokamak and helical plasmas with full-kinetic and hybrid models", Nuclear Fusion, 53, 053007 (2013).



シミュレーションコードの紹介


名称:FORTEC-3D
名称:KEATS
  • 開発者:沼波政倫(NIFS)、菅野龍太郎(NIFS)、佐竹真介(NIFS)、神保成昭(総研大・現所属:セイコーエプソン株式会社)、高丸尚教(中部大学)
  • 内容:
     KEATSコードは、ドリフト運動論的方程式をδf法に基づいて解法することでトロイダルプラズマの輸送をシミュレーションする、大規模計算機コードである。本コードにより、トロイダルプラズマにおける新古典論で扱われるクーロン衝突輸送現象に対する共鳴磁場摂動(RMP)などのエラー磁場が与える磁気面の変形・破壊(磁気島やエルゴディック領域の生成など)の影響を解析することができる。
     ここに、δf法とは、5次元位相空間(座標空間3次元、速度空間2次元の位相空間)における案内中心分布関数fの時間発展を記述するドリフト運動論的方程式に対して、fをf=f0+δfとし、f0を例えば局所マクスウェル分布と考え、f0を固定してδf部分について解を求める手法である。前提条件として、プラズマ平衡はδfの時間発展中は準定常状態であり、かつ|δf/f0|<<1であると仮定している。
     本コードでは、δfの時間発展を解く際の流儀として、2つの重み関数pとwを用いるδf法のtwo-weightスキームに基づき、分布関数fのそれぞれのパートはf0=pgおよびδf=wgのように与えられる。ここで、gはマーカー分布関数であり、gの時間発展に伴って重み関数pも変化し、pの時間発展は重み関数wの時間発展に寄与する。ドリフト運動論的方程式をラグランジュ的に扱い、マーカー分布関数gの時間発展はモンテカルロ法を用いてクーロン衝突を模擬した各位相点(マーカー)の5次元空間内の運動により与え、また各マーカーに乗って重み関数pとwの時間発展を与える。求めた分布関数fから、例えば、磁気面などのreference surfaceを横切る粒子束、エネルギー束などを評価することで、動径方向のプラズマ輸送を解析することができる。本コードでは、ヘリカルプラズマで良く見られるような、磁気島がある場合や磁力線構造がエルゴディックである場合など、より一般的な3次元平衡に対してプラズマ輸送を解析できるように、磁気座標に依らない座標系を用いている。
     現在、本コードを用いて、トロイダルプラズマにおけるイオンの衝突輸送現象に 対する共鳴磁場摂動(RMP)による磁気面の変形・破壊の影響について、シミュ レーション研究を行っている。ここでは、電場の効果は無視している。今後は、 f0の時間発展、電子の衝突輸送、電場の影響などを扱うことができるようにコー ドの拡張を行う予定である。
  • 参考論文:
    (1) M. Nunami, R. Kanno, S. Satake, H. Takamaru, H. Sugama, and M. Okamoto, "Neoclassical Transport Analysis around An m/n = 1/1 Magnetic Island", Research Report NIFS Series, No.NIFS-871, 2007.
    (2) R. Kanno, M. Nunami, S. Satake, H. Takamaru, and M. Okamoto,"Transport Modeling of Edge Plasma in an m/n=1/1 Magnetic Island", Contributions to Plasma Physics, Vol.48, Issue 1-3, pp.106-110, 2008.
    (3) R. Kanno, M. Nunami, S. Satake, H. Takamaru, Y. Tomita, K. Nakajima, M. Okamoto, and N. Ohyabu,"Monte-Carlo Simulation of Neoclassical Transport in Magnetic Islands and Ergodic Regions", Plasma and Fusion Research, Vol.3, S1060, 2008.

名称:GKV
名称:GKV-X
  • 開発者:沼波政倫, 渡邉智彦
  • 内容:
     本コードは、トロイダル・プラズマ(特にLHDなどの非軸対称プラズマ)装置でのプラズマ実験で用いられる実際の磁場配位における異常輸送の評価・予測を行うために開発された、微視的乱流輸送シミュレーション・コードである。基本的な特徴は、従来のGKVコードのものと同様であり、速度空間に非常に高い解像度を保ちながら、ジャイロ運動論的運動式に基づいて、5次元位相空間上の分布関数の時間発展を、スペクトル法、有限差分法、及びルンゲ・クッタ・ギル法を用いて解き進めていく。配位空間座標系としては、ある磁力線に沿ったフラックス・チューブ配位を用いている。
     LHD等の複雑な3次元磁場配位を扱うために、MHD平衡から得られる磁気面幾何に関する形状効果(計量テンソル、ヤコビアン)や磁場のフーリエ成分といった、磁場配位に関する情報を正確に取り込んでいる。これにより、実際に実験で観測された温度・密度分布を反映した現実的な磁場配位における微視的乱流輸送シミュレーションが可能になる。なお、3次元平衡計算には広く利用されているVMECコードを用いる。
     これまでに、本コードを用いて、イオン温度勾配(ITG)不安定性やゾーナルフ ロー応答へのヘリカル磁場の幾何形状効果について解析した。 現在は、LHD実験における実際の放電を反映した平衡配位でのITG乱流輸送シミュ レーションを行う一方で、高精度な衝突効果の導入等、コードのさらなる拡張を 進めている。
  • 参考論文:
    (1) M. Nunami, T.-H. Watanabe and H. Sugama, "Gyrokinetic Vlasov Code Including Full Three-dimensional Geometry of Experiments", Plasma and Fusion Research Vol.5, pp.016 (May 2010).

名称:GKV+/EM
  • 開発者:石澤明宏、前山伸也、渡邉智彦
  • 内容:
    プラズマベータが有限な場合、イオン温度勾配不安定性が駆動する乱流(ITG乱流)は安定化される傾向がある。ベータ値が大きくなるとITG乱流は安定になり粒子・熱輸送に寄与しなくなる。その一方、捕獲電子モードまたは運動論的バルーニングモードが不安定になり、これらの不安定性に駆動された乱流が粒子・熱輸送を引き起こす。
    核融合科学研究所における従来のジャイロ運動論シミュレーション・コードGKVは電子の断熱応答(プラズマベータ(無次元化した圧力)が0の場合成立する)を仮定してイオンの運動を解いていた。有限ベータプラズマにおける乱流輸送を評価するために、このコードを拡張し、有限ベータプラズマの解析に必要な電子の運動および磁場揺動を導入した。
    その結果、従来の解析にあった制約が取り除かれ、有限ベータなど非常に広いパラメータ領域および種々の乱流輸送の解析が可能になった。新たに可能になった点を以下に列挙する。

    1、有限ベータプラズマの粒子・熱輸送の評価
    2、熱輸送のみならず粒子輸送の評価
    3、電子の熱輸送の評価
    4、粒子・熱輸送に対する磁場揺動の寄与の理解

名称:REFES
  • 目的:ヘリカルトロイダルプラズマにおける電場ダイナミクスの解析
  • アルゴリズム:拡散方程式を空間差分を用いて解析し,空間発展は予測子修正子法により 行う。
  • 特徴・応用例:ヘリカルプラズマにおける内部輸送障壁の予測。帯状流による輸送低減の議 論が可能。
  • 参考論文:
    (1) S. Toda, K. Itoh, "Analysis of Structure and Transition of Radial Electric Field in Helical Systems", Plasma Physics and Controlled Fusion Vol.43 (2001) pp.629-643

名称:RTF5
  • 目的:トロイダルプラズマにおける微視的乱流、ゾーナル流、電磁流体不安定性およびそれ らの多階層相互作用を数値シミュレーションすることが目的である。
  • アルゴリズム:時間発展に対し予測子修正子法を用いる。空間については、動径方向は中心 差分、ポロイダル角度方向およびトロイダル角度方向はフーリエ展開を用いる。
  • 特徴:簡約化二流体モデルに基づいたシミュレーションコードであり、微視的乱流、ゾーナル 流、巨視的MHD不安定性およびそれらの相互作用を矛盾無く解くことができる。
  • 参考論文:
    (1) A. Ishizawa and N. Nakajima, "Excitation of Macro-Magnetohydrodynamics Mode due to Multi-Scale Interaction in a Quasi-Steady Equilibrium Formed by a Balance between Micro-Turbulence and Zonal Flow", Physics of Plasmas Vol.14, (2007) pp.040702



最近の発表論文


【乱流輸送】
  1. H. Sugama, T.-H. Watanabe, and M. Nunami, "Extended gyrokinetic field theory for time-dependent magnetic confinement fields", Physics of Plasmas, Vol.21, No.1 (2014) pp.012515-1--15.
  2. M. Nakata, A. Matsuyama, N. Aiba, S. Maeyama, M. Nunami and T.-H. Watanabe, “Local Gyrokinetic Vlasov Simulations with Realistic Tokamak MHD Equilibria”, Plasma and Fusion Research, Vol.9, 1403029 (2014).
  3. S. Maeyama, A. Ishizawa, T.-H. Watanabe, M. Nakata, N. Miyato and Y. Idomura, “Kinetic Ballooning Mode Turbulence Simulation based on Electromagnetic Gyrokinetics”, Plasma and Fusion Research, Vol.9, 1203020 (2014).
  4. 洲鎌英雄, 渡邉智彦, 解説「ジャイロ運動論による磁化プラズマ乱流の研究-核融合から宇宙まで-」, 日本物理学会誌, (2013), pp.296--304.
  5. A. Ishizawa, S. Maeyama, T.-H. Watanabe, H. Sugama and N. Nakajima, "Gyrokinetic turbulence simulations of high-beta tokamak and helical plasmas with full-kinetic and hybrid models", Nuclear Fusion, 53, 053007 (2013).
  6. S. Maeyama, T.-H. Watanabe, Y. Idomura, M. Nakata, M. Nunami and A. Ishizawa, "Computation-Communication Overlap Techniques for Parallel Spectral Calculations in Gyrokinetic Vlasov Simulations", Plasma and Fusion Research, Vol.8, 1403150 (2013).
  7. M. Nunami, T.-H. Watanabe, and H. Sugama, "Relation among ITG Turbulence, Zonal Flows, and Transport in Helical Plasmas", Plasma and Fusion Research Vol.8 (2013) pp.1203019-1--3.
  8. A. Ishizawa and F. L. Waelbroeck,“Magnetic island evolution in the presence of ion-temperature gradientdriven turbulence”, Physics of Plasmas, Vol.20, 122301 (2013)
  9. A. Ishizawa and T.-H. Watanabe,“Reversible collisionless magnetic reconnection”, Physics of Plasmas, Vol.20, 102116 (2013).
  10. M. Nunami, T.-H. Watanabe and H. Sugama, “A reduced model for ion temperature gradient turbulent transport in helical plasmas”, Phys. Plasmas, Vol.20, 092307 (2013).
  11. H. Sugama, T.-H. Watanabe, and M. Nunami, "Conservation of energy and momentum in nonrelativistic plasmas", Physics of Plasmas Vol.20, No.2 (2013) pp.024503-1--4.                            
  12. T.-H. Watanabe, H. Sugama, M. Nunami, K. Tanaka, and M. Nakata, "Gyrokinetic simulations of entropy transfer in high ion temperature LHD plasmas", Plasma Physics and Controlled Fusion Vol.55, No.1 (2013) pp.014017-1--6.
  13. T.-H. Watanabe, H. Sugama, M. Nunami, and M. Nakata, "Gyrokinetic simulation studies for non-axisymmetric plasma confinement: turbulent transport and entropy transfer", Journal of Physics: Conference Series Vol.399, No.1 (2012) pp.012020-1--10.
  14. O. Yamagishi and H. Sugama, "Collisionless kinetic-fluid simulation of zonal flows in non-circular tokamaks", Physics of Plasmas Vol.19, No.9 (2012) pp.092504-1--10.                    
  15. H. Sugama, T.-H. Watanabe, M. Nunami, S. Satake, S. Matsuoka, and K. Tanaka, "Kinetic Simulations of Neoclassical and Anomalous Transport Processes in Helical Systems",  Plasma and Fusion Research Vol.7 (2012) pp.2403094-1--9.
  16. M. Nunami, T.-H. Watanabe, H. Sugama, and K. Tanaka, "Gyrokinetic turbulent transport simulation of a high ion temperature plasma in large helical device experiment",  Physics of Plasmas Vol.19, No.4 (2012) pp.042504-1--14.
  17. M. Nakata, T.-H. Watanabe, and H. Sugama, "Nonlinear entropy transfer via zonal flows in gyrokinetic plasma turbulence", Physics of Plasmas Vol.19, No.2 (2012) pp.022303-1--14.
  18. S. Toda and K. Itoh, “Study of electric field pulsation in helical plasmas”, Plasma Phys. Control. Fusion, Vol.53, 115011 (2011)


【新古典輸送】
  1. J. Miyazawa, Y. Suzuki, S. Satake, R. Seki, Y. Masaoka, S. Murakami, M. Yokoyama, Y. Narushima, M. Nunami, T. Goto, C. Suzuki, I. Yamada, R. Sakamoto, H. Yamada, A. Sagara and the FFHR Design Group, “Physics analyses on the core plasma properties in the helical fusion DEMO reactor FFHR-d1”, Nucl. Fusion, Vol.54, 043010 (2014).
  2. S. Matsuoka, S. Satake, H. Takahashi, A. Wakasa, M. Yokoyama, T. Ido, A. Shimizu, T. Shimozuma, S. Murakami and LHD Experiment Group "Formation of Electron-Root Radial Electric Field and its Effect on Thermal Transport in LHD High Te Plasma" Plasma and Fusion Research Vol. 8, 1403039 (2013) .
  3. R. Kanno, M. Nunami, S. Satake, H. Takamaru and M. Okamoto, "Dependence of radial thermal diffusivity on parameters of toroidal plasma affected by resonant magnetic perturbations", Plasma Physics and Controlled Fusion, Vol.55, No.6, 065005 (2013).
  4. S. Satake, J.-K. Park, H. Sugama, R. Kanno "Neoclassical Toroidal Viscosity Calculations in Tokamaks Using a of Monte Carlo Simulation and Their Verifications" Physical Review Letters vol.107, 055001 (2011) .
  5. S. Satake, H. Sugama, R. Kanno, J.-K. Park "Calculation of neoclassical toroidal viscosity in tokamaks with broken toroidal symmetry" Plasma Physics and Controlled Fusion vol.53, 054018 (2011) .
  6. R. Kanno, M. Nunami, S. Satake, H. Takamaru, M. Okamoto and N. Ohyabu, "Modelling of ion energy transport in perturbed magnetic field in collisionless toroidal plasma", Plasma Physics and Controlled Fusion, Vol.52, No.11, 115004 (2010).